キーワード検索の次に来る M テクノロジー
第 37 回日本 M テクノロジー学会大会
大会長 高橋 亘
2002 年に関西福祉科学大学として初めて日本 M テクノロジー学会を開かせていただきました。その前年は北海道の空知での学会大会でした。この年私どもの大学に大学院臨床福祉学専攻科が出来、大学院生をつれて参加しましたが、直前に台風が本土を通過するという時期で交通の条件に気をつかったことが昨日のように思い出されます。この時に私どもの大学での初めての学会大会をお引き受けした訳ですが大学院の一年生と一緒に充実した学会大会にしたいと話していました。
2002 年の学会大会の頃は私どもの日本語解析システムも、漢字の読みを決定するために局所的な文脈を反映した連語を組む必要性があること、そしてその連語が人間の知覚の様式と密接に関係しているらしいことぐらいしか分かっていませんでした。日本手話と日本語との間の言語構造の比較も始まったばかりでした。当時の学会大会論文集を改めて見直してみるとその状況がよく分かります。
翌 2003 年の学会大会は長崎で行われましたが、この時期から我々の日本語解析システムは意味解析の段階に入りました。意味が純粋化される語の結合を知覚連語と呼ぶようになったり、知覚連語と意味要素の関係から意味空間の定義をするようになったり、日本語解析システムの言語学的基盤に急速に目が向けられていきました。その結果、知覚連語を機械的に学習するための知覚連語の形成規則、機械学習の前提となる品詞解析の技術、そして複文を捌いて構造的に捉える技術などが次第に整えられていきました。2004 年には我々のシステムをその構文理解のあり方から、日本語解析システム「ささゆり」と命名するに至りました。
2007 年には、それまでに理論化できた理論、つまり人間の知覚と言葉の関係、日本語解析システム「ささゆり」の基礎理論、知覚連語の言語学と意味空間の理論、日本手話と日本語の言語構造の関係などをまとめて拙著「コミュニケーション支援の情報科学」を出版いたしました。出版をきっかけに意味解析の技術もさらに充実し、複文の意味解析や、その延長としての形式名詞の意味推定が出来るようになりました。
このような日本語解析の技術は、とりもなおさず MUMPS という階層型データベースを操作する医療データベース言語によって始めて可能であったということは、日本 M テクノロジー学会の皆様が周知とされるところであります。
2010 年度の学会大会のテーマを「キーワード検索の次に来る M テクノロジー」とさせていただきました。今、私たちはキーワードを含むか含まないかという判断基準ではなく、同じ意味を持つ表現であるかどうかという判断基準でデータを検索する技術に踏み込みつつあります。今学会大会がある意味でエポックメーキングな大会になることを望んでやみません。
2010 年 7 月 1 日